高校物理・数学成績アップ術

微風出版「導出物理」の著者による物理・数学の学習戦略ブログ

高校数学で導出できない物理の公式(3)

 万有引力や静電気力がはたらくベクトル場において、力学的エネルギー保存則を正確に導出することも不可能です。何故ならば、万有引力や静電気力が、「保存力」であるとことを明確に証明することができないからです。それには大学で習う数学の知識が必要ですが、とりあえず高校の範囲では万有引力や静電気力が保存力であることを暗記し、エネルギー保存則の公式を覚えるしかありません。大学で数学と物理を学べばそのあたりは非常にすっきりしますので、お楽しみはとっておきましょう。

 ただし重力がはたらく場であれば、それほど難しくはありません。重力は必ず鉛直下向きで、なおかつ位置によらず一定の大きさだからです。したがって導出物理(改訂版)では「運動エネルギー+重力による位置エネルギー=一定」となることを高校で習う微積を用いて一応導出しましたけど、万有引力や静電気力は位置によって大きさや向きが変化してしまいますので、単純にはできません。

 では「保存力」とはそもそもどう理解すればいいか。

 例えば、静電気力がはたらく場において、物体がA点からB点に移動したとします。その経路が直線であろうと、遠回りしようと、静電気力がする仕事は変わりません。また、物体がA点からB点を通り、別の経路をたどって再びA点に戻ったとします。このとき、静電気力がする仕事はトータルで必ず0になります。静電気力はもちろん経路の過程で仕事をするわけですが、もとの位置に戻ってくるまでの合計を計算すると0になってしまうのです。そのような性質を持つ力を「保存力」と呼んでいます。

 大学の数学では、曲線に沿って積分したときに、その積分値が経路によらず初めの位置と後の位置だけで決まるようなベクトル場が存在することが証明されます。そのことを物理で定義されている力と仕事に応用すると、結局次のようなシンプルな結果が得られます。

保存力がする仕事=(初めの位置エネルギー)-(後の位置エネルギー

また、運動方程式積分計算することで、次の結果も得られます。

外力がする仕事=(後の運動エネルギー)-(初めの運動エネルギー)

物体にはたらく外力が保存力のみだとすると、上記の式はそれぞれ等しいので、

(初めの位置エネルギー)-(後の位置エネルギー

   =(後の運動エネルギー)-(初めの運動エネルギー)

となり、

(初めの位置エネルギー)+(初めの運動エネルギー)

   =(後の運動エネルギー)+(後の位置エネルギー

つまり、力学的エネルギー保存則の公式が得られます。

 

 保存力は重力、万有引力、静電気力の他にも、浮力やばねの弾性力がありますが、保存力がはたらく場において、外から保存力以外の力がはたらかないときは、必ず「運動エネルギー+位置エネルギー=一定」という公式をつくることができます。

 

 

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