デフレ経済で投資を推奨するのは誤り
まずこのことを論証する前に、理解しなければいけないことがある。
仮にAさんが国から許可を受けて一人で「A銀行」を開業したとする。
Aさんはまだ開業したばかりで預金者は誰もいない。
ここにBさんが現れ、工場建設費用としてA銀行に1億円の融資を申し込んだとする。
ここでA銀行は融資できるかというと、理論上可能である。一般銀行は中央銀行(日本では日銀)から借り入れを行うことができるため、その借り入れを原資として、Bさんに貸し出すことができる。
A銀行は中央銀行からの借り入れに成功し、Bさんの審査を通せば、Bさんの口座に1億円が振り込まれることになるが、それは単に通帳に書き込まれるデータであり、紙幣や硬貨を介さず、1億円が誕生することになる。この瞬間、国民が使えるお金の全体量(マネーストック)は1億円増加する。
※この1億円の元は、中央銀行が発行したお金であるが、中央銀行は通貨を発行できる立場にあるため、中央銀行の原資は無限と考えられる。
次に10年後、Bさんは利子1千万円を含む合計1億1千万円をA銀行に完済したとする。さらにこの10年でBさん以外誰も銀行からお金を借りた国民はいないとする。
すると、国民が使えるお金の全体量(マネーストック)は10年前よりも1千万円減ってしまうことになる。(Aさんの給料を無視した場合)
つまり借金は返済するほど国民の使えるお金の全体量は減ることになる。
仮にBさんを含め、1000人が同時に1億円を借り、金利付きで10年後に完済すると、国民の使えるお金の量は、1千万×1000=100億円減少することになる。つまり多くの借り入れが起こる高度経済成長の後ほど、マネーストックは大きく減少する。
国民が使えるお金の量が減れば、当然それをみんなで分配しながら経済活動をしなければいけないため、給料減→物価安のデフレに陥るのは当然である。これが現在の日本の貧困化の原理。
さて、話は少し逸れるが、この減ってしまった1千万円を補うには、およそ次の3つの方法しかないと考えられる。
(1) Bさん以外の誰かが借金をし続ける
(2) 貿易黒字にする,外国人観光客を増やす
(3) 政府が通貨を発行して国民に配る
(1) の場合は、誰かが常に借金をしている状態を維持すればマネーストックは維持されるが、政府は基本的にコントロール不可能。(2)は関税をかけることくらいで、同様ににコントロール不可能。(3)なら可能である。したがってデフレ経済においては通貨を発行して国民に配り、通貨量減少を抑えなければいけない。(実際は緩やかなインフレが続くまで通貨量を増加される必要がある)にもかかわらず政府は消費増税をしており、これはデフレ対策ではなくインフレ対策であり、まったく真逆なことをやっている。
話を戻すと、今度は銀行を介さず、個人から個人に融資が行われた場合はどうだろうか?この場合はマネーストックの増加は起こらず、国民が使える全体量は変化しない。これは個人が企業に投資する場合も同様である。
つまり、個人が企業に投資を行い、その個人が利益を上げるということは、誰かのお金が減って誰かのお金が増え、その全体量は変化しない。これはただ格差が拡大しているだけである。
要するにデフレ経済において、投資を推奨するということは、
「お金を持っている人は貧乏な人からお金を吸い取ってください、貧乏な人は投資できないでしょうから、さらに貧乏になるけど我慢してね」
と言っているのと同様である。
政府が投資を推奨して、貧困問題は自分たちで解決しろ、と言っているのなら、それは国民を見捨てていること意味し、それはもはや政府とは呼べない。