高校物理・数学成績アップ術

微風出版「導出物理」の著者による物理・数学の学習戦略ブログ

MMT的思考実験で財務省に問い合わせてみた

財務省は相変わらずプライマリーバランス黒字化という破綻した目標を掲げている。これが何故破綻しているのかという説明のため、以下の思考実験を示した。これを財務省にメールして、論理矛盾があれば指摘してほしいと問い合わせてみた。

 

【思考実験】
5人(A,B,C,D,E)だけの小国がある。この国民とは別に政府と市中銀行役が各1人いるとする。

初めみんな各1万円を所持。Aさんが100万円を銀行から借り、商売をはじめる。この経済活動で,A~Eはそれぞれ所持金が変化することになるが、5人の所持金の合計は105万円で変わらない。

10年後までにAさんは銀行に金利込みで110万円を返済しなければいけないものとする。この場合、国民全員の所持金をかき集めても、105万円しかないので、このままでは返済は不可能。よってA~Eの誰かが銀行から借金をして、国民のお金の量を増やさなければ、少なくともAさんは債務不履行となり破綻する。…(X)

ここで10年後までに他に誰も借金をしなかったとする。すると返済が進むにつれて国民のお金の量は少なくなるため、みんな節約思考となり、物価が大幅に下落する。…(Y)


このような状況下で、政府が国債を発行し、15万円の公共事業を行ってA~Eに仕事を与える。さらに税を課し1年後に10万円の税収を得るものとする。すると国民の所持金の1年後のお金の増加は15-10=+5万円となる。次の年も10万円の税収を得て、プライマリーバランスを重視して、歳出を10万円に抑えたとする。すると、国民のお金の増加は+5万円のままである。

さて(X)の状況を考えれば、国民のお金の合計は105万+5万=110万となる。AさんはB~Eさんから借金し、110万円をすべてかき集め、銀行に借金110万円を返済したとする。このとき国民のお金の所持金はゼロとなり、AさんはB~Eさんに借金を返済できないどころか、お金が無くなったので経済活動もできず、誰も税金は払えなくなる。

(Y)において、仮に10年以内にA~Eの誰かが100万円を借りたとする。すると銀行に返済しなければいけないお金の合計は220万円。さらに別の誰かが100万円を借りれば返済しなければいけないお金は330万円となる。この場合、国民の所持金総額は300万円であるため、国債発行がなければ金利分の30万円が払えない。つまりお金を借りる人が減少し始めると、時間の経過とともに国民のお金は銀行の返済にまわり、国民のお金は減少し続け、やがてゼロになる。従って国民の銀行からの借入が減少している状況下では、プライマリーバランスは赤字化しなければ、どうやっても国民は貧困化するという結論になる。

 

財務省からの返信内容

お寄せいただきましたご質問にお答えいたします。

個人の見解に対しては、意見を述べる立場にございませんので、コメントは差し控えさせていただきます。
なお、日本の財政については、公的債務残高がGDPの2倍程度に累積するなど厳しい状況にあります。このまま公債に依存することにより、国債費が歳出に占める割合が高まると、公共事業や社会保障等の他の政策的支出への予算配分の自由度を狭めたり、政府部門の資金調達の増大により民間企業の資金調達を阻害することとなり、生産活動の低下などが考えられます。そのため、「新経済・財政再生計画」に沿って経済再生を図り、歳出と歳入、両面の改革を続け、2025年度のプライマリーバランスの黒字化を実現し、債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すことが重要です。

今後とも、財務行政につきまして、ご理解とご協力を賜りますよう宜しくお願いいたします。

 

 

返信内容からもわかるように、プライマリーバランス黒字化が破綻している根拠を示しているにも関わらず、それには何も触れられていません。当たり前ですね。公務員ですから財務省の方針をそのまま言うしかありません。しかし、思考実験をちゃんと読んでいるのなら、答えた本人は葛藤を覚えたことでしょう。

 

PB黒字化の根拠を見てみましょう。

国債費が歳出に占める割合が高まると、公共事業や社会保障等の他の政策的支出への予算配分の自由度を狭めたり、政府部門の資金調達の増大により民間企業の資金調達を阻害することとなり、生産活動の低下などが考えられます。

政府はインフレ率を限界に通貨を発行し続けられるので、予算配分の自由度を狭めるなんてことはあり得ない。また、資金調達を阻害すると言っているが、国債を発行し続けても超低金利になっている現実があり、実際は資金調達の阻害など全くしていない。そもそも通貨量(マネーストック)の減少により消費が落ち込み、投資が増えないわけであり論理が矛盾している。

 

いかがでしょうか。これが東大出身者の考えの総意。全く哀れであり、これによって貧困化が加速しているという現状には唖然とするばかりです。

 

財務省へ再質問

 (1)国債費が歳出に占める割合が高まると、公共事業や社会保障等の他の政策的支出への予算配分の自由度を狭めるのは何故ですか?
(2)国債を発行し続けても金利が全く上がらない状況なのに、国債発行の増大で何故企業の資金調達を阻害することになるのですか?
(3)お金(硬貨を除く現金預貯金)はすべて借金で発行されていることは、財務省では承知していますか?
(4)通貨量が減少すると事実上の物価高及び税金の値上げとなり、消費が縮小してデフレスパイラルになります。(3)で承知しているとするなら、民間の銀行からの借入が減っているときにプライマリーバランス黒字化を続けると、通貨量(マネーストック)は減少して理論上ゼロ(理論は前回説明済み)になり得ますが、それでも何故プライマリーバランス黒字化が重要なのですか?


マネーストックとは個人と法人の所持する現金預貯金の合計であり、市中銀行と政府の日銀当座預金は含まないものと定義します。

※ここでいう通貨量の減少は、マネーストックの変化率(微分係数)の減少と定義します。その理由は、市中銀行からの借入には必ず金利がかかり、通貨量の増大とともに金利も増大するため、マネーストック自体が増加していても、変化率が小さいまたは減少傾向にある場合、当然デフレ圧力となり、単純に増加だからよいとはならないためです。

 

財務省からの返信内容

6月21日にお寄せいただきましたご質問にお答えいたします。
 
日本の財政については、本来、その年の歳出はその年の税収や税外収入で賄うべきですが、直近の令和元年度予算では歳出全体の約3分の2しか賄えていません。そのため、歳出の約3分の1を公債金(借金)に依存している状況です。
財政赤字の状態が続き、我が国財政の持続可能性に対する信用が失われると、国債金利が急激に上昇すること等が考えられます。そのような状況に陥ると、国債の利払い費の金額が増加し、皆様の生活に必要な公的サービスを十分に提供できなくなることや、金利が支払えなくなり債務不履行となる可能性も考えられます。
こうした状況を改善し、債務残高を引き下げるためには、その時点で必要とされる政策的経費をその時点の税収+税外収入で賄えている必要、すなわち基礎的財政収支プライマリーバランス)が黒字である必要があります。
政府としては、2018年に策定した財政健全化計画(「新経済・財政再生計画」)においても、歳出と歳入の両面において改革を続け、2025年度のプライマリーバランスの黒字化を実現し、債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すこととしており、この計画に沿って経済再生と財政健全化を両立させることが重要と考えています。
今後とも、財務行政につきまして、ご理解とご協力を賜りますよう宜しくお願いいたします。

 

 予想通り質問内容をほぼ無視し、コンピューターのような機械的回答。一番のツッコミどころは、自身のサイトで自国通貨建てのデフォルト(債務不履行)はあり得ないと言っておきながら、金利が払えず債務不履行の可能性を言及していますが、いつものことです。

 「その年の歳出はその年の税収や税外収入で賄うべきですが…」と言っているが、論理性がゼロです。根拠がなくそうすべきだと言っており、たぶん理由がわからないけどそれは当たり前だと思っていると受け取れます。そんなことしたら通貨量が理論上ゼロになるとこちらが指摘しているのに、そこは完全スルーでした。

さて、ここからは特に政治家の皆さんによく聞いてもらいたい。財務省がこれだけ国債金利を気にしている点に注目してほしい。

例えば100兆円の歳出を国会で決定したとする。この後財務省国庫短期証券の発行によって、日銀当座預金のデータを100兆円増やします。この発行した通貨を財政出動させることになります。(いわゆるスペンディングファースト)そして1年後までに回収した税収は70兆円だったとする。すると30兆円が足りない額となるので、30兆円の国債を市場で販売するという流れになる。(財政法の縛りがあるため日銀は直接引き受けはできないので民間に販売する必要がある)

 ここで財務省が気にしているのが、このとき販売する金利。どれくらい金利をつければ銀行や投資家が買ってくれるか。これは全く不確定。場合によっては、どんなに金利を高くしても売れ残るということは理論上ありえるため、不安で仕方がないことでしょう。万一売れ残ったとすれば法律を冒してでも不正経理をするしかない。

 ここが一番の問題。国債が売れるかどうかは買い手側の意志に委ねられている。よく考えるとこれはおかしいし、万一売れ残った場合はどうするかといったルールがなければ仕組み自体が破綻している。結局財務省は絶対に売り切らなければいけないという販売ノルマを課されていることになる。

 さらに問題なのは、市中に出た国債を日銀が買い取ることはできるが、買い取るかどうかは政府や日銀の判断であって、財務省はコントロールできない。日銀が国債を買い取ってしまえば事実上国債金利はゼロとなるわけだが、それが不確定であるため、日銀の買上げがない場合の金利を想定することになる。つまり頭の中では金利というものが膨大になり続けるため、なんとか歳出を抑えたいという緊縮思考になる。

 というわけで問題点が見えてきました。金本位制の時代ならまだしも、公務員に国債の販売ノルマを課すというのはどう考えてもおかしい。この緊縮思考のおかげで何が起ったか。なんと政治家が財務省の担当者に頭を下げに行かないと予算を配分してもらえないという、権力の逆転現象が起こるという結果に。

 結局何が元凶かと言えば「市中消化の原則」。これがおかしい。つまり財政法5条で示される日銀の直接引き受けの禁止。この考え方が根本的な誤りだと言える。国債を日銀が引き受ければ、事実上の通貨発行となり、財政規律が保たれない、などという批判をする人がいるわけだが、結局その規律とは何かと問えば、プライマリーバランス黒字化という誤った根拠になってしまう。

 思考実験でも示した通り、プライマリーバランス黒字化するということは、通貨量(マネーストック)の調整を無視するということ。

  お金はすべて借金で発行されているわけなので、お金の量はざっと次のようになる。

国民の所持金総額=市中銀行の貸出残高+政府の負債額

つまり、経済成長が現在のように落ち着き、人口が減少傾向になると、銀行から借金をする人が減少し、通貨量が減少する。このときプライマリーバランスを赤字にして通貨減少量を補う必要があるが、現実は真逆のことをしている。結果国民は節約指向となって経済は大減速をしている。

 政治家の皆さん。財政法4条、5条の誤り。市中消化の原則の誤り。これを放置すると本当にひどいことになりますよ。この法律によって財務省が勘違いする上、必要なところに必要な通貨(富)を分配することが困難になっている。

 政府が通貨をいくらでも発行できると、権力が集中し、危険だと考える人もいるでしょう。だったら何が危険なのかを議論して、それに合わせて法律を作ればいいだけ。軍事費増大が危険と判断するなら、軍事費に市中消化の原則を適用させれば良い(個人的にはそうは思わないが)。そしてそもそも民主制国家なのだから、権力が集中するという発想がおかしい。国民の代表が議論して決めた予算、その予算配分は国民の思想そのもの。権力の集中を心配するなら、財政法ではなく、立候補のための供託金の高さなどを指摘すべき。デフレで物価が減少し、供託金が一定なら事実上の供託金の値上げ。これを考えただけでも破綻していますよね。

金を持っている人の意見が通りやすい世の中が民主的であるとはたして言えますか?